ご注文はリード化合物ですか?〜医薬化学録にわ〜

自分の勉強や備忘録などを兼ねて好き勝手なことを書いていくブログです。

触媒医薬品:新しい医薬品の形と落ちこぼれの夢

この記事は創薬 (dry) Advent Calendar 2020 の 13 日目の記事です。 クリスマスに書く advent calendar とは

adventar.org

クリスマスですし、飲みながら書いているので、偶にはポエミーな記事でも。

医薬品のモダリティの多様化が叫ばれて久しいですが、ものすごく大まかに分類すると、低分子、バイオ医薬(特に抗体医薬)、中分子に大別されると思います。 低分子はご存知の通り、昔から盛んに研究がなされていますが、ターゲット分子の枯渇や、rule of 5 の制約、動態、毒性の制御などの観点から、その重要性は下がると言われています(chemical space の広さを考えると、まだまだ可能性はいくらでもありそうですが)。 バイオ医薬(ワクチンも含む?)は、低分子医薬がターゲットにしないようなタンパク質も狙えることから、選択性も相まって、近年盛んに研究され、実際に認可されている薬も増えてきています。 最も、コストがとんでもなく、薬価の高騰にも寄与しているという・・・(バイオ医薬ってどうやって設計しているんでしょうか?詳しい方に御教授頂きたいです) 中分子は、 Ro5 に縛られない、官能基高密度型天然物やペプチド医薬などを扱います。これまで余り扱ってこなかったので、可能性はありますが、低分子医薬の発想の延長ではないか、という気もします(穿ち過ぎか?)。

これらの医薬品、モダリティは違えども、共通点があります。それは、医薬品とそのターゲットの化学構造は変化しない、ということです。 代謝などを除けば、そんなことは当たり前です。しかし、こう考えることもできるはずです。

ターゲット分子(特にタンパク質)と相互作用するだけが医薬品の形だろうか?

例えば、タンパク質をぶっ壊すことで、疾患を治療できないか?

高校時代(10 年前)、初めて化学で酵素を勉強したとき、基質特異性という性質に感動したことを今でも覚えています。そして、こう思ったことも。

酵素を自由自在に、天然アミノ酸以外で作れたら面白いだろうなぁ

大学では薬学部にいましたが、暗記ばかりの授業に嫌気がさしていたところ、何となくネットサーフィンをしていたら、一つのワードに出会いました。その衝撃は、もしかしたらもう二度と体験できないかもしれません。

触媒医療

触媒の機能を医薬品として応用する。化学反応を薬にする。私のやりたいことを全て詰め込んだようなワードでした。 この研究を絶対したい!これなら自分の人生をかけられる!若き日の私は触媒医薬品の研究をしたい、という思いでいっぱいでした。

お気づきの方も多いと思いますが、この研究は、東大薬学部の金井先生の研究室でなされているものです。

www.f.u-tokyo.ac.jp

触媒医療というワードに出会って 10 年以上経っていますが、残念ながら、触媒医療の研究を私はできておりません。有機化学が好きなはずなのに、何故か今は実験すらせず、機械学習というよく分からない怪しげなものに手を出している始末です。実験をせずして何が有機化学者か!

しかし、私は触媒医療の研究をするチャンスはいずれは訪れるのではないか、と信じています。触媒医薬を設計する際には、普通の医薬品とは異なり、基質と生成物両方について毒性などを考慮する必要があります。当然、三次元的な相互作用や遷移状態なども考慮する必要があるでしょう。そういった場面で、計算化学の力は必要になってくるはずです。

自分が生きているうちにはなし得ないかもしれない、でも、その基盤を作るのに貢献したい。無能な研究者でも、夢を追いかけることはできるはずだから。

(余談ですが、金井先生はベンチャー企業を立ち上げられているようです。すげぇ。計算化学もしてるっぽい。)

www.vermilion-tx.com